権限設計プラクティス

AWS Lambdaでデータに安全にアクセスするために:IAMロールとポリシーの実践

Tags: AWS Lambda, IAM, 権限管理, サーバーレス, クラウドセキュリティ

「権限設計プラクティス」をご覧いただき、ありがとうございます。本記事では、AWS Lambda関数が各種データストア(S3、DynamoDB、RDSなど)へ安全にアクセスするための権限管理に焦点を当てます。サーバーレスアーキテクチャにおいて、Lambda関数の権限設定はセキュリティの要となります。適切な権限管理は、意図しないデータ漏洩やシステムへの不正アクセスを防ぐために不可欠です。

開発業務において、Lambda関数を作成し、特定のデータにアクセスする必要に直面する場面は少なくありません。しかし、どのように権限を設定すれば安全なのか、過剰な権限を付与してしまうリスクはないのか、といった疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。本記事では、AWS Identity and Access Management (IAM) を活用したLambda関数の権限設定について、具体的な手順やポリシーの例を交えながら解説します。

Lambda関数と権限管理の重要性

AWS Lambdaは、イベントに応答してコードを実行するサーバーレスコンピューティングサービスです。データベースの更新、S3バケットへのファイルアップロード、APIリクエストなど、様々なイベントをトリガーとしてLambda関数を実行できます。

Lambda関数がデータストアと連携する場合、その関数にはデータストアへのアクセス権限が必要です。この権限が不適切に設定されていると、以下のような問題が発生する可能性があります。

サーバーレスアーキテクチャでは、多数の小さな関数が協調して動作することが多いため、それぞれの関数に対して必要かつ最小限の権限を正確に設定することが、システム全体のセキュリティを確保する上で非常に重要になります。

IAMロールによるLambda関数の権限管理

AWSでは、サービスやリソースへのアクセス権限管理にIAMを利用します。Lambda関数に権限を付与する場合、ユーザーに直接権限を付与するのではなく、IAMロールを使用することが推奨されています。

IAMロールは、特定のユーザーやサービス、アプリケーションに引き受けさせることを前提としたIDです。ロールには権限ポリシーがアタッチされており、ロールを引き受けたエンティティはそのポリシーで定義された権限を持つことになります。

Lambda関数にIAMロールを割り当てることで、Lambdaサービスはそのロールを引き受け、ロールに定義された権限で他のAWSサービス(S3、DynamoDB、RDSなど)にアクセスできるようになります。

IAMポリシーの種類と構成要素

IAMポリシーは、誰が何にどのような操作を許可または拒否するかを定義するドキュメントです。ポリシーはJSON形式で記述され、主に以下の要素で構成されます。

IAMポリシーにはいくつか種類がありますが、Lambda関数に関連して主に利用されるのは以下の2つです。

  1. 信頼ポリシー (Trust Policy): そのロールをどのプリンシパル(ユーザー、サービス、アカウントなど)が引き受けることを許可するかを定義します。Lambda関数のためのロールの場合、プリンシパルとしてlambda.amazonaws.comサービスを指定します。
  2. アクセス権限ポリシー (Permissions Policy): ロールを引き受けたプリンシパルが、他のAWSサービスに対してどのような操作を許可されるかを定義します。S3やDynamoDBへのアクセス権限はこのポリシーで定義します。

Lambda関数のIAMロール作成手順と具体的なポリシー例

Lambda関数が必要なデータストアにアクセスするためのIAMロールを作成する基本的な手順は以下の通りです。

  1. IAMコンソールまたはAWS CLI、IaCツール(CloudFormation, CDK, Terraformなど)を使用して、新しいIAMロールを作成します。
  2. ロールのタイプとして「AWSサービス」、サービスとして「Lambda」を選択します。これにより、信頼ポリシーが自動的にlambda.amazonaws.comからの引き受けを許可するように設定されます。
  3. ロールにアクセス権限ポリシーをアタッチします。ここで、Lambda関数が必要とする最小限の権限のみを定義したカスタムポリシーを作成し、アタッチすることが推奨されます。
  4. 作成したロールをLambda関数に割り当てます。

以下に、特定のデータストアへのアクセスを許可するアクセス権限ポリシーの具体的な例をいくつか示します。

例1: 特定のS3バケット内のオブジェクトへの読み取り(GetObject)と書き込み(PutObject)を許可するポリシー

{
    "Version": "2012-10-17",
    "Statement": [
        {
            "Effect": "Allow",
            "Action": [
                "s3:GetObject",
                "s3:PutObject"
            ],
            "Resource": "arn:aws:s3:::my-data-bucket/*"
        }
    ]
}

このポリシーは、ARNがarn:aws:s3:::my-data-bucket/*で始まるS3オブジェクトに対するGetObjectPutObjectアクションを許可します。これにより、my-data-bucketという名前のバケット内のファイルに対する読み書きが可能になります。バケット自体への操作(ListBucketsなど)や、他のバケットへのアクセスは許可されません。

例2: 特定のDynamoDBテーブルへのアイテム読み取り(GetItem, Query, Scan)と書き込み(PutItem, UpdateItem, DeleteItem)を許可するポリシー

{
    "Version": "2012-10-17",
    "Statement": [
        {
            "Effect": "Allow",
            "Action": [
                "dynamodb:GetItem",
                "dynamodb:Query",
                "dynamodb:Scan",
                "dynamodb:PutItem",
                "dynamodb:UpdateItem",
                "dynamodb:DeleteItem"
            ],
            "Resource": "arn:aws:dynamodb:ap-northeast-1:123456789012:table/MyDataTable"
        }
    ]
}

このポリシーは、指定されたARNのDynamoDBテーブルに対して、基本的なアイテム操作(CRUDに相当するアクション)を許可します。テーブルの作成や削除、設定変更といった操作は許可されません。リソースARNは、リージョン、AWSアカウントID、テーブル名を正確に指定する必要があります。

例3: 特定のRDSデータベースインスタンスへの接続を許可するポリシー(IAMデータベース認証を使用する場合)

RDSへのアクセスは、一般的にデータベースユーザー名とパスワードで行われますが、セキュリティを高めるためにIAMデータベース認証を使用する方法があります。LambdaからIAM認証でRDSに接続する場合、Lambda関数のロールに以下の権限が必要です。

{
    "Version": "2012-10-17",
    "Statement": [
        {
            "Effect": "Allow",
            "Action": [
                "rds-db:connect"
            ],
            "Resource": [
                "arn:aws:rds-db:ap-northeast-1:123456789012:dbuser:db-instance-identifier/db-user-name"
            ]
        }
    ]
}

このポリシーは、指定されたRDSデータベースインスタンス(db-instance-identifier)に対して、特定のDBユーザー名(db-user-name)での接続(rds-db:connect)を許可します。リソースARNは、RDSインスタンスARNに加えてdbuserとDBユーザー名を指定する形式になります。

これらの例はあくまで一部です。アクセスするデータストアの種類、必要な操作に応じて、適切なアクションとリソースをポリシーで定義する必要があります。AWSの公式ドキュメントで各サービスのIAMアクションとリソースARNの形式を確認しながら、必要な権限を慎重に定義することが重要です。

最小権限の原則をLambdaに適用する

Lambda関数の権限設定における最も重要なベストプラクティスは、最小権限の原則を徹底することです。これは、関数がその機能を実現するために必要最低限の権限のみを持つべきであるという考え方です。

最小権限を実践するためには、以下の点を考慮します。

開発初期段階では、必要な権限が完全に把握できていないこともあります。その場合でも、最初は最小限の権限から始め、テストを通じて不足している権限を特定し、徐々にポリシーに追加していくアプローチが安全です。CloudFormationやCDK、TerraformといったIaCツールでIAMポリシーをコードとして管理し、変更履歴を管理することも、意図しない権限変更を防ぐ上で有効です。

データストア側の権限設定との連携

Lambda関数がデータストアにアクセスする場合、IAMロールによるLambda側の権限設定だけでなく、データストア側の権限設定も考慮する必要があります。

例えば、S3バケットの場合、バケットポリシーによって特定のIAMプリンシパルからのアクセスを許可または拒否できます。DynamoDBやRDSでも同様に、リソースベースのポリシーやセキュリティグループによるネットワークアクセス制御などが存在します。

Lambda関数が特定のデータストアにアクセスできるためには、Lambda関数のIAMロールにそのデータストアへのアクセス権限が付与されていることに加えて、データストア側でもそのIAMロールからのアクセスが許可されている必要があります。多くの場合、IAMロールによるアクセスはデータストア側の設定で許可されるため、Lambda側のロール設定が主となりますが、バケットポリシーなどで明示的な拒否設定がされている場合は注意が必要です。

まとめ

AWS Lambda関数におけるデータアクセス権限の管理は、IAMロールと権限ポリシーを適切に設計・実装することで実現できます。

これらの実践的なアプローチを取り入れることで、Lambda関数を通じたデータアクセスをよりセキュアにし、システム全体の信頼性向上に貢献できるでしょう。ご自身の開発されているシステムにおけるLambda関数の権限設定を、ぜひ一度見直してみてください。